発達障害
発達障害とは
発達障害は、生まれつき脳に何らかの障害があり、発達に凹凸があり、その症状は幼い頃から現れます。医師から「発達障害」と診断を受けた方は、全国で48万人以上との調査結果があります。また、小中学校の教師に行った調査では、通常学級に通い学習や行動に困難を感じる児童生徒は、15人に1人、つまり1クラスに1~2人程度いることになります。ひと昔前は「発達障害」という認識もなく、人との関わり方が苦手な子、落ち着いて物事ができない子などと大勢の中に紛れて、本人や周囲も違和感や生きづらさを感じていながらもそのままにされていたように思います。しかし少子化や個別指導のように一人ひとりに焦点を当てること、そして発達障害の認識の広がりから「発達障害」は増えてきたといえます。発達障害の正しい理解とサポート体制が必要でしょう。大掛かりな改修が必要ではありません。発達の凹凸が出来るだけフラットになるような関わり方や工夫やルール作りなど、本人も周囲の人も心のバリアフリーが行えるようにすることが長く生活していく中で大切です。
大人の発達障害
「大人の発達障害」が増えていると言われています。小さい頃から症状があったものの、周りのサポートや環境に順応できていたため大きく問題にならず、就職や結婚などの転機で人と人とのコミュニケーションが複雑になったり、大きな責任をおっていかなければならない状況となったりしたことで、小さい頃の症状が顕著になり生きづらさを感じる方が多くなっているようです。
家庭や学校では、家族や先生、理解ある友達やクラスメイトといった人たちが助けてくれます。しかし社会人となり、会社や取引先、お客様といった様々な立場や人との関わりが必要となります。一方的に話してしまうなどコミュニケーションが苦手であったり、静かに物事に取り組めなかったり、トラブルメーカーとなってしまっては仕事が成り立ちません。働きづらさが生きづらさとなり本人も会社も悩んでしまいます。発達障害という認識は広まりつつはありますが、具体的な心構えや環境の整備や支援といったことは、まだ不十分であることも確かです。
周囲からの目
会話が成り立たない、ひとりで遊ぶことが多い、勉強についていけない、ジッとしていられない、常識が通用しないなど、これまでに出会われたことがあるかもしれません。家族、クラスメイト、仕事仲間などの直接的な関わり、生活の中でご近所、バスや電車内などでの間接的な関わりがあります。発達障害への理解がないと、コミュニケーションが取れなかったり、ミスやトラブルが多くなってしまい、差別的な目で見る方もみえるかもしれません。見た目は健常者と変わりないことが多く、気づかれにくいことも発達障害の特徴の一つともいえます。発達障害の方の多くは小さい頃より何かしらの生きづらさを感じており、普通の人と同じことができるように様々な工夫をしています。
発達障害というひとつの個性
自分と同じ容姿、考え方、生きてきた環境が同じ人など一人としていません。一人ひとりに個性があり、それぞれ得意なことや不得意なことがあり、人との関わりの中でフォローし合いながら生きていることは言うまでもありません。発達障害も個性の一つと捉えることができます。苦手はありますが、通常より秀でている能力を持ち合わせていることも少なくありません。お互いに生きづらさをなくし生活していくには、発達障害をきちんと理解することからです。発達障害は治らないからしょうがないよね、ではなく苦手は工夫によってカバーし、得意を十分に生かせる環境が理想でしょう。
発達障害といっても特徴は人それぞれです。知的障害や言語障害を伴わないこともあるため、パッと見ただけでは発達障害であることがわからない場合もあります。人と関わる中で「私は人とは違うな」と違和感を感じつつも大人になるケースも多くなっています。発達障害は大きく3つのタイプがあります。代表的な特徴を取り上げますが、前述の通り重複する特徴を持つ場合もあります。
広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)
「広汎性」とあるように、自閉症やアスペルガー症候群をはじめとするその他の発達障害も含まれます。「広汎性発達障害」は世界保健機関(WHO)の概念で、最近耳にする機会の多くなった「自閉症スペクトラム障害」はアメリカの精神学会の概念です。名前は違いますが、ほぼ同意義で使われています。主な特徴は、人と関わることに困難を感じたり常識が通じないなど社会性の障害、会話がうまく成り立たなかったり相手の気持ちを汲むことが難しいなどのコミュニケーションの障害、興味・関心のかたよりやこだわりが強いことが挙げられます。
自閉症の特徴は、目が合わない、他の子に関心がなく一人遊びが多い、よく泣くもしくはほとんど泣かず表情が乏しい、名前を呼んでも振り向かない、言葉の発達が遅いなどが幼少期に見られます。他にも、一つのことに没頭し、何度も同じ行動を繰り返したり、独り言が多かったり、突然の出来事に臨機応変に対応することができずパニックになってしまいます。自閉症の約半数の方が知的障害を伴っているといわれていますが、暗記する力や計算する力など並外れた能力を持っていることもしばしばあります。
アスペルガー症候群は、広く捉えると自閉症に含まれるひとつのタイプですが、自閉症のような言葉の発達に遅れがないことが大きな特徴です。知的な発達に遅れがある方もほとんどなく、知的レベルは正常もしくは高い場合がほとんどです。そのため、小さい頃に発見する・発見されることがなく、環境が変わったり、人とのコミュニティーが複雑になるにつれて生きづらさを感じ、アスペルガー症候群であると分かるケースもあります。特徴は、自閉症から言葉の発達を除いた行動が主になります。言われたことをそのままの意味で受け取ってしまうなど比喩や冗談は通じません。発した言葉に対して相手がどのように思うかといったイメージすることに乏しいため、空気の読めない発言をしてしまうこともあります。話し方や身振り手振りが独特なことも特徴の一つです。
その他にも、音や味や痛みなどの感覚が敏感もしくは鈍感であったり、興味関心の偏りのため徹底した収集癖があったりと症状は様々です。こだわりの強さと変化を好まない性質より、同じ物ばかり食べ、その他は一切食べない(例えば白いご飯ばかり食べ、野菜は一切食べない)といった食の偏りが現れる場合もあります。
注意欠如・多動性障害(ADHD)
その名の通り、ミスなど不注意が多く、落ち着きがなく動き回ったり、突然動き出すといった衝動性を特徴とします。よく挙げられる特徴の一つは、小学生の児童が授業中に急に立ち上がり教室を歩き廻るといった様子です。これは多動性の特徴で、他にも手足をもじもじ動かしたり、静かな場面でも隣の子に話しかけたり、順番を待つことが難しいといったことがあります。不注意での特徴は、うっかりミスや同じようなミスの繰り返しで、忘れ物や紛失物が多くあります。集中力が続かないため、やるべきことを最後までやり遂げることができません。小学校に入学し、集団生活が始まった7歳頃、ADHDの症状が見られ診断されるケースが多くあります。
学習障害(LD)
知的発達に問題はありませんが、読む・書く・聞く・話す・計算するなどある特定のことに障害をもちます。例えば読むことに困難を感じている方は、言葉の意味はもちろんのこと、文章の中のどの部分で言葉が区切れるのかが分からないため、読むことを難しく感じます。漢字の音読み、訓読みの区別が分からず、漢字を飛ばして平仮名だけ読む飛ばし読みも特徴です。他にも書くことに困難を感じている方は、書くことが非常に遅かったり正しく書けません。そのため、聞いたことをメモしておこうとしても、かなりの時間を要することとなります。小学校に入学し、学習が進む2年生以降に気づくケースが多いです。
発達障害の弊害とはどのようなものがあるでしょうか。発達障害の特徴が起因となり弊害が起こる場合が多くあります。言葉のキャッチボールが一方通行になるために人が離れてしまうケース、できないことに対して自分を責め生きづらさで悩むケース、手が出てしまいトラブルが絶えないケースなど様々です。本人の生きづらさ、共に生活し発達障害を支える側に生じる弊害もあり、特徴や弊害をよく理解した上での対策が必要です。
できない自分を責める
発達障害の方は、周りの理解がないと「普通」を求められ「普通」にできるように頑張ります。故意にミスするのではなく、決してサボっているのではありません。できないことや周りとの違いは本人も感じている場合もあります。そのような中で責められ、叱られ、本人はできない自分を責めます。「なぜ私は普通の人のようにできないのだろう」「普通にできるようにならなければ…」と思い、次第に「普通にできない自分はダメな人間だ」「生きているいるのが辛い」などと生きづらさ、自己嫌悪、自己否定のスパイラルに入ってしまう場合があります。さらに、うつや頭痛、倦怠感などの身体症状が出るなど二次障害になってしまう場合もあります。
いじめや孤立
集団生活をする学校や組織として動く職場などで、いじめや孤立につながることがあります。特に学校では、一方的に話されたり、ルールを守らない、一人遊びばかりしているなどを理由に発達障害児が孤立してしまったり、自分や周りの子とは違う、授業中や休み時間にも困らせるようなことをするなどをきっかけに、いじめに発展してしまうこともあります。できないことが何なのか、できないことへの工夫やコントロールができない発達障害の子供へは、大人のサポートが必要となります。そして同じクラスメイトや関わる児童生徒の理解により、お互いに戸惑いや混乱が緩和できます。社会に出て働く職場では、仕事が遅かったり、期限を守れなかったりすることで仕事を与えなかったり、まるでいない人のように扱われたりすることもあるようです。できないことへの理解と工夫やルール決めで改善することは可能です。
気づかれず理解されない苦痛
発達障害の方はパッと見ただけでは発達障害であると分かりにくいことがほとんどです。自閉症では言葉の遅れや人とのコミュニケーションが非常に困難な特徴はありますが、アスペルガー症候群やADHD、学習障害は普段の生活では多少困難はあるものの、症状によっては大人になるまで気づかないような場合もあり、気づきや理解が遅れてしまう場合があります。最近では発達障害についてのテレビ番組特集が組まれたり、様々な本により発達障害を知る機会が増えました。有名人が発達障害であることを告白することにより発達障害について知る機会となった方もいるかもしれません。ただ、知識は広まりつつありますが、理解や支援の整備はまだと言えます。そのため本人やパートナーなどは、生きづらさを感じつつもそのまま生活して違和感が増幅してしまい、精神的肉体的に症状が出る場合があります。
支える側の弊害
発達障害の子をもつ家族や発達障害のパートナーをもつカップルや夫婦、友達など支える側の方は、発達障害への理解はもちろんのこと、忍耐がとても必要になります。発達障害を最も理解し大きく受け止めることで、本人は安心できる人、安心できる場所として生活することができます。できないことを工夫によって改善したり、できることを大いに伸ばす環境作りには長い目で見た心構えが必要になりますが、一人で悩み行き詰まってしまったり、ひたすらに我慢することで、精神や肉体に症状が出てしまうこともあります。
発達障害の特徴でも触れましたが、発達障害の種類や特徴によって行動や思考のパターンはそれぞれ代表的なものはあります。しかし必ずしもそうとは限りません。自閉症、アスペルガー症候群、ADHDでよく見られるパターンを取り上げていきます。理解や対策の手立てとなるよう、パターンを知ることから始めましょう。
コミュニケーションの障害
人間は一人では生きていけないため、人と人とのコミュニケーションは必要不可欠です。しかし、発達障害の方はこのコミュニケーションに障害が起きます。一方通行の会話になる、質問をしても質問内容とは違う答えが返ってくるもしくは返ってこない、目が合わない、場の空気に合わない発言をするなどがあります。根本は相手がどのように感じ、どのように考えるのか想像ができないからです。自分の興味関心が優先することもあり、相手のことを考えない発言や行動になってしまうことがしばしばあります。つまり「相手の立場になって考える」ということに難しさを感じます。
例えば、ヘアースタイルを変えて気分良く過ごしていた奥様に「変な髪型だね。前の髪型の方が良かったね。」と発達障害の旦那様はストレートに思ったまま言ってしまう。奥様は「今のヘアースタイルを気に入っていたのに…」もしくは「あなた(旦那様)に喜んでもらえると思ったのに…」と落ち込んだり、時には怒り出してしまうかもしれません。しかし、発達障害の旦那様は奥様がどのように思うのかは想像できていません。このようなことが解決されないまま生活していると、次第に夫婦仲が悪くなる原因となってしまうこともあります。
幼稚園・保育園、学校生活では、集団で遊ぶことはせず一人遊びをよくします。他の人にあまり興味がないのです。そのため、集団生活の中ではそれが当たり前のようになり、人との関わりが薄れます。また、会話でジョークや例え話が通じなかったり、自己主張ばかりで周りの意見を聞かなかったり(理解できなかったり)することがあるため、孤立してしまったり、時にはいじめの原因になってしまうこともあります。
常識や当たり前は通用しない
普段何気なく生活している中には、常識や規則、わざわざ言わなくとも理解している暗黙のルールというのは多くあります。バスや電車など公共交通機関の中では静かに過ごす、目上の人には敬語で話す、列になり並んでいるときは最後尾に並び順番を待つ、など当たり前に感じていることが発達障害の方はできないことがあり、トラブルにつながる場合もあります。
例えば、取引先との初対面の挨拶でも立場関係なく「これからよろしく!」とまるで友達のように対人関係や場に沿わない挨拶となってしまう。給食のおかわりの列を横入りして、クラスメイトと喧嘩になってしまう。静かに取り組む時間でも、急に立ち上がり動き回ったり、隣の人に休み時間と変わらぬ声の大きさや内容で話しかけるといった様子があります。
落ち着きがない
ジッとしていられず、手を叩いたり、足踏みをしたり、ソワソワ落ち着かない様子が目立ちます。急に歩き回ったり、静かな場面でも急に歌い出したりしてしまいます。単にジッとしていられないのもありますが、興味関心が強く、気になったものは自分で確認しないと気が済まないため、あちこちに動線が伸び、結果多動となってしまうこともあります。授業や仕事などでは集中が続かないため、短いスパンで作業をするといった工夫も良いでしょう。集団生活では周りと違う動きをしたり、急に動き出すことで驚き、集団に馴染めず孤立するようなこともあります。
興味の偏りやこだわり
自分の興味あることにはとてもこだわりが強く、同じものやシリーズものを集めたり、興味あることに対して非常に積極的に行動することがあります。
赤いボールが大好きで、起きている間はずっと肌身離さず抱え、寝るときも一緒です。例えばこの赤いボールがなくなってしまったらこの世の終わりのようなパニックが起きます。青いボールでもダメなのです。他にも食べ物へのこだわりも強い場合が多くあります。野菜やお肉はもちろん、混ぜご飯も食べず白いご飯のみ食べる、お母さんの料理は食べるが給食や外食では一切食べないなどです。
鉄道やメカニックなど興味を示すものは人それぞれですが、それに対するこだわりや集中力、記憶力は強く長く続きます。そのため、その特性を活かした職場を選んだり、一つのことを極めるといったことでメリットとして活かす方も多くいます。
発達障害は、医師の診断を受けた方だけでも48万人以上いると言われています。最近では発達障害が増えてきたと言われていますが、発達障害が正しく診断されるようになったこと、発達障害の理解が進んだことが大きな要因といえるでしょう。その発達障害の原因は、先天的なもので生まれつきの脳の障害であることはよく言われていますが、いまだに詳しくは分かっていません。
生まれつきの脳のエラー
前述したように、発達障害は先天的な脳の機能障害です。精神疾患であったり、親の育て方が原因ではないと言われています。見聞きしたものや触ったり体験したものを理解したり、過去の経験を活かして計画したりチャレンジすること、記憶することなど、脳の「認知」の機能に何らかの障害があり、脳の発達に偏りがあることが分かっています。遺伝に原因があるのか、発育中の環境が影響するのか、他に要因があるのかというのはまだ分かっていません。発達の凹凸もそれぞれのため、症状の現れ方が大きかったり、小さいがために気づかれにくく生きづらさや違和感を感じつつ過ごしていたりと様々です。今後、何が原因でどのようなメカニズムで発症するのか解明されることを願います。
環境から受ける心への影響
生まれつきの脳の障害と言われていますが、生まれてきてからの環境も少なからず関わっているのではないか、後天的なものも原因を大きくしているのではないかと考えます。幼少期から発達障害の症状が現れ、言葉をなかなか話さない我が子、癇癪が激しく何をしても泣きわめく我が子、外へ出ても他の子とは遊ばず親にずっとくっついているか一人遊びばかりする我が子、何度教えてもできない我が子…。ついつい口調が強くなったり、いつも不機嫌な顔をしていたり、イライラしてばかりで子供の目の前で夫婦喧嘩をしているかもしれません。周りの子と同じようにできない我が子を責め、理解を示さず、「できる」を強要したり、逆に放置したりするような環境では、通常な発達すらできないでしょう。「できない子」のレッテルを貼られた子供は、「私は何をやってもできない」と刷り込まれそのように行動を取ってしまったり、混乱で慌ててしまうことが多くなるでしょう。発達障害ではないものの、発達障害のような特徴が現れ、後述する「グレーゾーン」と言われるようなことにつながる場合もあります。
発達障害のグレーゾーン
発達障害の症状は見られるものの、医師からはっきりと発達障害と診断されない状態を「発達障害のグレーゾーン」と言います。「発達障害のグレーゾーン」というのは診断名ではなく、発達障害の診断には満たないが、その傾向が見られる場合の俗称です。体調などにより症状が現れたり現れなかったりする場合、発達障害の症状はあるものの幼少期からあったかどうかハッキリと示せないなど診断基準に満たない場合などがグレーゾーンにあたります。幼少期には診断されなかったが、後々発達障害と診断されることもあります。
「発達障害」についてテレビで特集が組まれたり、「大人の発達障害」といったような本が多く出版されています。インターネットでも「発達障害」と検索すれば様々な情報が得られます。正しく理解されれば問題ないのですが、言葉だけ一人歩きをして差別的用語で使われていることもあります。子供、大人、夫婦、養育、仕事など何かにつけて「発達障害」「アスペルガー」「グレーゾーン」を持ち出して、周りと違う原因・できない原因とするようなことも無きにしも非ずです。中には独断で「私は発達障害のグレーゾーンだ」と思っている方もいます。まずは「発達障害」を正しく理解することから始めましょう。そして、特性の大小に関わらず、対応や生活する工夫を考えていくことが重要です。決して症状が軽度だからグレーゾーンというわけではありません。症状の内容や現れ方が軽いようなものでも、生きづらさを感じるのであれば何かしらの対策を施し、自分らしく生きられるようにする必要はあるでしょう。
果たして発達障害は治るものなのでしょうか?脳の障害であるものの原因がはっきりしておらず、特効薬などはないため治ることはありません。しかし症状を良くすることや改善することは大いに可能と考えます。ここでは、対策やアイディアを挙げていきます。
スケジュールはあらかじめ見える化
前述したように、発達障害は先天的な脳の機能障害です。精神疾患であったり、親の育て方が原因ではないと言われています。見聞きしたものや触ったり体験したものを理解したり、過去の経験を活かして計画したりチャレンジすること、記憶することなど、脳の「認知」の機能に何らかの障害があり、脳の発達に偏りがあることが分かっています。遺伝に原因があるのか、発育中の環境が影響するのか、他に要因があるのかというのはまだ分かっていません。発達の凹凸もそれぞれのため、症状の現れ方が大きかったり、小さいがために気づかれにくく生きづらさや違和感を感じつつ過ごしていたりと様々です。今後、何が原因でどのようなメカニズムで発症するのか解明されることを願います。
環境から受ける心への影響
発達障害の方は、スケジュールの変更があるとすぐに対応ができずパニックになってしまうことがあります。子供の場合は特に環境の変化にはとても敏感なため、遠足などで知らない場所に行ったり、親や担任の先生ではない見知らぬ人が急に来たりすると、泣き出してしまったり暴れたり、体が固まってしまうなどしてしまいます。臨機応変に理解し行動することが非常に難しいのです。
対策としては、あらかじめ1日のスケジュールを見て分かるように示しておくことで安心することができるでしょう。朝起きたら1日のスケジュールを一緒に確認し、通常と異なる予定には印をつけて分かるようにしておく。学校では朝礼の時に担任の先生と一緒に確認することも良いでしょう。仕事では締め切りがいつまでなのか、仕事の進捗状況などを上司や先輩と確認できる時間を持てると良いでしょう。
また、仕事では「これやっておいて、急いでないから」といった口頭でのやり取りや「お客さんの気持ちになって考えてね」といった曖昧な表現をすると、発達障害の方には正しく伝わらない場合があります。いつまでにやらなければいけない仕事なのか、どのように行う仕事なのか、発達障害の方は「急いでいないならまだやらなくていいか」と捉えてそのままにしてしまうでしょう。口頭で伝えられたことのため、この後すぐに仕事が入ると集中が移りすっかり忘れてしまううかもしれません。また相手の気持ちをイメージすることが難しい発達障害の方は「相手の気持ちになって」という表現は分かり兼ねます。このようなことから結果として、仕事ができていなかったり、違った内容となっている場合があります。対策として、仕事内容をマニュアル化することも一つの方法でしょう。手順をあらかじめ示したり、伝言をメモで渡すことでうっかりミスを回避することができ、伝えたいこともちゃんと伝えることができます。
発達障害の方は想像を膨らませイメージを開拓していくようなことは困難に感じることが多いです。感覚で捉えるような物言いも伝わりにくいです。しかし手順立てられたことで安心をもって勉強や仕事に取り組めたり、機器の組み立てのような精密なことでも、興味あることへの集中力の高さを発揮し確実にこなすことができます。
やるべきことは短時間でメリハリをつける
ADHDのように集中力が続かずジッとしていられなかったり、授業時間と休み時間の区別ができなかったりします。自閉症のように興味関心がコロコロ移り、もしくは一つのことに集中しすぎて物事が進まないこともあります。
対策としては、集中できる時間を把握して、できるだけ短時間で行えるように工夫すると良いでしょう。休憩を挟みながら物事を進めることで、一つのことに集中してじっと考え取り組むといった発達障害の子にとって苦痛のような状況を回避できます。学校では集中して考える時間、友達と話してワークをする時間、体を動かす時間といったことを取り入れながら1時間取り組める工夫もたくさんしています。時間にメリハリをつけ、定着できるように支援することで「できない」を「できた」に近づけることができます。
発達障害は「個性」でもあり「課題」でもある
人間は苦手なこと・得意なことが誰しもあります。人との関わりが苦手な人、誰とでも仲良くできる人、計画がうまく立てられず仕事の進みが悪い人、テキパキ仕事をこなす人、大好きなキャラクターのグッズを集める人…一人一人特徴があり様々です。発達障害も脳の機能障害によりできないことや苦手とすることもあります。しかし、好きなことへの集中力の高さや感覚が敏感であること、曖昧にせず忠実に取り組む姿勢、知識レベルが高いなど、秀でるところも少なくありません。
発達障害とは生まれてから一生お付き合いすることになります。できる・できないは生まれながらにしての個性であり、できないことは課題として改善できるように取り組むことで、生きづらさは少なくなるでしょう。完璧を目指したり、普通の人のようにできるようにすることを強制すると、もっと生きづらくなってしまいます。周りの人の力を借りながら「よりよく」過ごせるような工夫ができるとよいでしょう。
発達障害は周りからのサポートが必要です。特に症状が強い場合は周りの人のサポート無くして生きていくことも難しいでしょう。ここではサポートする上での心構えや注意することなどを挙げていきます。
ピンポイントで捉えない、長期的な支援
発達障害の方は発達障害が生まれてから一生のお付き合いになります。その家族も同様です。関わる先生や友達、将来のパートナーも発達障害とは長いお付き合いとなります。発達障害の症状は幼少期から現れます。子供の変化を見逃さず、把握しておきましょう。例えば家では気になる兆候があるけれど、健診時には症状が現れず見逃されてしまうケースもあります。発達障害とハッキリと言い切れずグレーゾーンとなってしまうこともあります。ただ、できないことをできないままに捉えて怒ったり放置したりしないでください。そのできないことが実は発達障害の兆候であったりもするのです。
発達障害と分かったらできること・できないことを把握しましょう。環境が変わると症状の現れ方も変わってくると思いますが、支援方法を考え、心構えをしておくことは重要です。学校の入学前には医師や教員と連携を取り、体制を整えることが必要です。通常学級か特別支援学級か、支援方法の共有はどのようにするのか、共働き等であれば学童や放課後デイの利用の有無など、事前に準備を進める必要があります。
何回言ってもできなかったり、勝手にどこかへ行ってしまったり、言葉の発達が遅いために意思疎通ができなかったり、トラブルが多かったりと、様々な障害があるかもしれません。ただ、できないことだけにとらわれないで、少しでも成長が見られたりできるようになったら褒めてください。その行動は素晴らしいことを教えてあげてください。少しずつの積み重ねが、発達障害本人の自信に繋がるはずです。
普通を求めすぎないで
「普通の子はできるのに、なんで私の子はできないの?」と「普通」を求め「普通」にできるように言って聞かせることもあるでしょう。口調が強くなり、何度も何度も怒りもしくは呆れ、次第に発達障害の人は「普通」にできない自分を責め、自己肯定感がどんどん低くなってしまいます。「普通にできない自分はダメな人間だ」とうつ状態に繋がる場合もあります。発達障害の場合、親の育て方が原因ではありません。しかし、対応が適切でなければ発達障害の症状を助長させたり、不安や自信の喪失から生きづらさが増してしまうことは大いに考えられるでしょう。
得意なことは存分に発揮できるように、そして不得意なことやできないことは工夫や対策をショートステップで考え、少しずつ改善できるような心構えや環境作りが必要でしょう。
カサンドラ症候群
アスペルガー症候群など相手の気持ちや立場を考えた行動や言動をすることが困難な発達障害をもつ家族やパートナーと、コミュニケーションができずに苦しみ精神的・肉体的に不調をきたした状態をいいます。正式な疾患名ではありませんが、近年、アスペルガー夫を支えるカサンドラの妻といったように使われることで知られるようになりました。症状としては、抑うつ、不眠、パニック障害、無気力、偏頭痛などが現れます。パートナーとのコミュニケーションが乏しくもしくは相互関係が築けず、激しく対立したり、精神的・身体的な虐待があったり、前述した不調が現れたり、その事実を他の人に話しても理解してもらえず孤立した状態をカサンドラ症候群と呼んでいます。発達障害の家族やパートナーが社会適応できている場合、外向きにはうまくいっているものの、家庭などプライベートな環境でのみ関係悪化が見られる場合があり、家族やパートナーは相当に悩んでいるものの、外からは気づかれなかったり、信じてもらえなかったりすることがあります。
家族だけの問題、夫婦だけの問題と捉えず、パートナー以外の人に相談できるような環境が肝心です。専門の医療機関にかかり、パートナーは発達障害であることを理解し、それに応じた適切な対応ができることが理想ですが、本人は発達障害であることを考えていないばかりか症状に悩んでいることもないかもしれません。そのような状態で病院やクリニックに行こうといっても傷つくあるいは怒りに触れてしまうかもしれません。そのようなことを考慮し、第三者であるカウンセラーやセラピーなどを利用して相談ができ、改善に努められるような環境が必要といえるでしょう。
行政の支援
昨今、発達障害について広く知られるようになってきました。医療機関を始め、地域の発達支援センターや発達障害の人たちや発達障害を持つ家族による自助グループなど、発達障害についての相談や共感を通して改善につなげる取り組みがだんだんと増えてきています。幼稚園・保育園、学校なども発達障害についての研修を重ね、理解のもと対応できるような体制を整えつつあります。行政の支援や地域の取り組みを利用したり、参加したりすることで新たな発見があるかもしれません。支援体制についてはこれからますます発展して、発達障害の人もそれを支える家族やパートナーもお互いがよりよく過ごすことを願っています。